福島県二本松市の農業斉藤登さん(61)が、東京電力福島第一原発事故後の風評被害に苦しむ県内農家を助けようと、農産物のインターネット通販を始めて間もなく10年になる。徹底した検査態勢と粘り強い営業活動で、今では50以上の農家と契約を結び、定期購入などの会員は首都圏を中心に5000人。3年前からは都内で直売会も開催する。東京の消費者と「顔の見える関係」をずっと続けたいと思っているからだ。(長久保宏美)
◆二本松の斉藤さん「苦しむ県内の農家助けたい」
12日午前10時。東京都台東区の「松坂屋上野店」駐車場棟に隣接する敷地で、斉藤さんは、自身が経営する農業生産法人「二本松農園」で働く鈴木
「朝、5時前に二本松市を出発しました。今日は福島市産のリンゴがおすすめ。キズがあるけど蜜入り。1個75円。小松菜は1束150円」と斉藤さん。
斉藤さんは二本松市のキュウリを中心に栽培する農家だった。福島第一原発から西に約50キロ離れ、放射性物質の影響はごくわずかだったが、事故の影響で生活は一変した。既存のルートでは農産物が売れなくなった。
それは、ほかの県内農家も同じだった。「福島産」というだけで嫌われた。絶望的な状況の中で、斉藤さんは、原発事故からまだ時間が経過していない2011年3月30日、前年秋に収穫した米5キロ20袋をネットで販売することにした。すると即完売した。
◆放射能測定装置、専門家の意見聞き土壌改良
「直接販売したら、買ってくれるかもしれない」。斉藤さんは農作物の放射能測定装置を導入する一方、専門家の意見を聞きながら土壌の改良などに取り組んだ。生産農家のリストも顔写真付きで公開した。
その後、県内54の農家が生産した農作物を、斉藤さんの運営する「里山ガーデンファーム」というサイトを通じて販売する仕組みを作った。
さらに斉藤さんは、19年秋から、経済産業省や大手新聞社などに頼み込み、施設の一角を借りて、その日採れた新鮮野菜や農産加工品の直売会を開催。会場はピーク時、10カ所にのぼった。新型コロナウイルス禍で昨年2月以降、都内での開催は激減したが、販売場所が屋外の上野の会場だけは継続している。毎週金曜日の開催時には1日に200人が訪れる。
斉藤さんは「これまでに、あまりに大変なことが多く、30年ぐらいにも感じる。ただ、ずっと福島の生産者が東京の消費者と直接つながるべきだ、と考えてきた。福島の農家が自立して食べていけるようになることが本当の復興なんじゃないの?」と話した。
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