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Thursday, August 5, 2021

累計販売数15万セット 捨てる野菜から生まれた「おやさいクレヨン」が売れ続けるワケ - ITmedia

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 本来捨てられてしまう野菜や果物を材料にした「おやさいクレヨン」が売れている。2014年3月に販売後、季節ごとに内容色の異なるシリーズをリリースし、累計販売数は15万セットに上る。価格は普通のクレヨンの約5倍にあたる2200円(10色入り)。決して安くはないのに、なぜここまで売れているのだろうか。

15万セットを売り上げる「おやさいクレヨン」とは(画像提供:mizuiro)

 おやさいクレヨンは子育て世代や祖父母世代から支持を集めており、過去にはハウス食品とスパイスを原料にしたクレヨンや、富国生命と全国の保育園に配布したクレヨンなど、大手企業とのコラボ商品を開発した。また、台湾や香港、米国、ドイツなどで展開していて、日本だけでなく海外からも幅広く注目を集めている。

 おやさいクレヨンの特徴は、米ぬかから採れた米油とライスワックスに野菜や果物の粉末を混ぜ込んで作られている点だ。一般的なクレヨンと異なり、キャベツや紫芋、りんご、カシスなどの素材をそのまま使っているため、ややくすんだ色味になってしまう。また、収穫のタイミングや製造ロットによって同じ「キャベツ色」でも少しだけ色味が変わることもあるという。一般的なクレヨンではあり得ないことだが、「バラつき」さえも、おやさいクレヨンの魅力の1つだ。

書き心地は普通のクレヨンと変わらないが、色味が少しくすんでいることが分かる

 そんなおやさいクレヨンを販売するのはデザイン会社のmizuiro(青森市)だ。野菜や果物には存在しない「青色」を補色するという意味が込められている。おやさいクレヨンはもともとフリーランスのデザイナーだった木村尚子社長の「画材や文房具など商品のデザインがしたい」という思いから生まれた。

 「青森で開催されていた藍染(あいぞめ)展を見に行ったのがきっかけでした。天然由来の色の深みや情緒に魅了され、天然の色を生かしたプロダクトが作れないかと考えるようになりました」(木村社長)

 次に「地元青森の野菜や果物を活用することでオリジナリティーを出せないか」と考え、野菜色の描画材(絵を描くペンなど)がアイデアとして浮かんできた。行政に相談したところ、補助金を出してもらえることになり、木村社長を入れた3人で開発チームを立ち上げることに。

 全員が子育て中だったことから「子どもと一緒に遊べるものを作りたい」という話し合いを通じて描画材からクレヨンに方針を変えた。

木村社長は「天然の色を生かしたプロダクトが作れないか」と考えた(画像提供:mizuiro)

きゅうり・トマトは使えない。クレヨンと野菜・果物の相性に苦戦

 「野菜や果物を使ったクレヨンを作ろう」。アイデアが固まったのはいいものの、クレヨンを作った経験はもちろんなかった。YouTubeでクレヨンの作り方を紹介している動画を発見し、見よう見まねで自作するところからのスタート。

 野菜を液状にしたり、練りこんでみたりと工夫を凝らす中で、野菜を粉末にするとクレヨンへの着色率が高まることが判明した。一段落かと思いきや、また大きな壁にぶつかることになる。

 「野菜や果物の種類によってクレヨンに合うものと合わないものが出てきました。特に果物は糖分が多く、ダマになってしまうためサラサラしたパウダーになりません。きゅうりやトマトなど水分を多く含む野菜は着色性が弱いため使えず、クレヨンの色味が制限されてしまうことが分かりました」(木村社長)

 クレヨンは赤や青などのはっきりとした色が好まれる傾向にあるものの、野菜や果物から人工的な色を出すのは難しく、青色に関しては野菜や果物には存在しない色だ。最終的に、赤色はりんごのちょっとくすんだピンク色で代替し、青色を入れるのは諦めた。

 YouTubeの動画を配信していた名古屋の工房「東一文具」を訪問し、野菜や果物の粉末でクレヨンに着色できることを確かめた木村社長は、青森県内で食品加工業も手掛ける農家を訪ねた。その畑の片隅で、見た目は少し悪いが、食べられるであろう野菜が置いてあるのを発見する。おやさいクレヨンに廃棄野菜を使おうとひらめいた瞬間だった。

市場に出せずに廃棄されてしまう野菜を使おうと思いつく(画像提供:mizuiro)

 「試作品の段階では食用として販売されている野菜や果物を使っていました。ただ、食べられる野菜を文房具にすることに抵抗感がありました。農家に野菜の粉末を仕入れられないか相談に行ったときに畑の片隅に置かれている野菜を見て、市場に出回らない野菜を使うことでコストも抑えられて、罪悪感も小さくできるとひらめきました」(木村社長)

 農林水産省の調査によると、18年の日本の食品廃棄物は年間2531万トン。その中で本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間600万トンに上る。これは国民1人が毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのと同じ計算だ。市場に出せない野菜や果物を使うことで、食料廃棄問題へのアプローチにもつながる。

年間600万トンの食品ロスは、日本人1人当たりが毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのと同じ計算になる(出所:農林水産省「平成30年度 日本の食品ロスの状況」)

 開発期間は13年7月から約6カ月間。「もったいない」野菜や果物を使い、環境に優しいサステナブルなクレヨンが完成した。今日では、SDGsや食糧廃棄問題などにも注目が集まり人々の意識も少しずつ変わってきている。しかし、当時はまだ環境に配慮した行動を取る消費者も企業も多くなかったと推測される。おやさいクレヨンの勝算はあったのだろうか。

 「正直、勝算はあまり考えていませんでした。おやさいクレヨンを使って一儲(もう)けしようとも思っていません。子どものころから環境問題への関心が強く、自然を残しつつ生活するために自分にできることはないかという意識が商品に反映されたと思っています」(木村社長)

 木村社長の思いが乗ったおやさいクレヨン。決して「時流に合った商品」とはいいにくいが、どのようなきっかけで累計15万セットも売れるヒット商品になったのだろうか。

1500人のバイヤーが押し寄せた「東京インターナショナル・ギフト・ショー」

 14年3月の本格販売を前に、2月に東京のビッグサイトで開催された「東京インターナショナル・ギフト・ショー」への出展が決まった。数千社が出展し、国内外からも多くのバイヤーが訪れ、来場者数は毎回20万人を超える日本の生活雑貨国際見本市だ。その中でも「アクティブクリエイターズ」という若手クリエイターが集まる注目ブースでのお披露目だった。

 「ブースには1日120〜130人、合計500人ほどの来場を予想していました。ふたを開けてみると、想像以上に多くのバイヤーとメディアが興味をもってくださり、用意していたパンフレットやサンプル商品、名刺は初日でなくなってしまいました。3日間合計で1500人のバイヤーが当社のブースに来場し、最初に生産した2000箱は1〜2週間で在庫がなくなってしまいました。本当に驚きました」(木村社長)

 それだけではない。ギフトショー出展を通して、おやさいクレヨンの考えに共感した企業からコラボレーションの相談が入るようになった。「バーモントカレー」で有名なハウス食品グループとは、スパイスを原料にしたクレヨン「彩るスパイス時間CRAYONS」を、クラウドファンディングを通じて販売。目標金額20万円に対して400万円以上の資金を集めた。

 21年には、富国生命保険の設立100周年に向けた「100周年プロジェクト」の一環として「THE MUTUAL Art for children」おやさいクレヨンを製作。全国の保育園や自治体に配布された。その他、今秋には大手スーパーマーケットとのコラボも予定しているという。

彩るスパイス時間CRAYONS(左)と「THE MUTUAL Art for children」おやさいクレヨン(画像提供:mizuiro)

 人気は日本だけにとどまらない。ギフトショーに海外バイヤーが来場していたこともあり、15年からは台湾や香港、米国、ドイツにも出荷している。シンガポールの著名なアートディレクターとのコラボ商品も限定販売した。21年9月からは米国で代理店契約を結び、より販売を強化していくという。

シンガポールの著名なアートディレクターとのコラボ商品(画像提供:mizuiro)

 本格販売から四季に合わせてクレヨンの色を変えたシリーズも販売した。現在は通年で確保しやすい野菜や果物と配色のバランスを考えた「スタンダードセット」のみを販売している。キャベツ、カシス、とうもろこしなど合計10色で価格は2200円。

 木村社長によると、ターゲットとしていた、こだわりを持った商品を購入したいと考える子育て層からの支持は国内外問わず獲得できているという。また、年齢に関係なく進級祝いなどの贈り物として購入する人が多いことも分かった。

子育て層からの支持を獲得している(画像提供:mizuiro)

 「子どもと一緒に楽しめるプロダクトが作りたい」。その思いから生まれたおやさいクレヨンが多くの子どものもとに届いているだろう。おやさいクレヨンが、世界が抱える食料廃棄問題や環境問題を親子で話すきっかけになるかもしれない。

 木村社長は今後について「現在は、クレヨン市場のシェアの数%しか獲得できていません。これからも実直にクレヨンの品質を保ちながら、理念として掲げている『親子の時間を彩る環境に配慮した商品を作る』という取り組みをコツコツと続けていきたいです」と力強く話した。

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