見知らぬ誰かに手紙を添えてコーヒーを一杯おごってみませんか。ごちそうになった人から返事が届きます−。こんなメニューが国分寺市のカフェにある。その名は「お手紙コーヒー」。コロナ禍で人との接触が限られる中、人と人との新しい交流を演出する取り組みとして、常連客らにじわじわ浸透している。
「手紙をとったこの日が誕生日の人へ」
「夢を追う貴方へ」
「孫の笑顔が大好きな人へ」
国分寺市のカフェ「クルミドコーヒー」に入ると、こんなふうに宛先が書かれた手紙が二カ所のラックに計二十五通ほど並んでいる。コーヒーをおごってもらいたい人は手紙を選び、店員に告げる。コーヒーを楽しみながら返信を書き、店に預ける。匿名で構わない。店は切手を貼ってコーヒーをおごった人に送る。
おごる側は、コーヒー代として「お手紙カード」を一枚七百円で買う。メッセージが書かれた手紙は店内のラックへ。住所、名前には個人情報保護のシールを貼る。店主の影山知明さん(47)は「懐具合に関係なく、どんな時でもコーヒーが飲める」と話す。
常連客のある女性は「今日の天気が心地いいと思った人」と書かれた手紙を手に取った。この春に、街から引っ越す。生まれ育った街、お世話になった人を思い出し、お手紙コーヒーを飲んだ。「対面で人と関わることが少なくなり、カフェの時間は一人で完結していた。今回は手紙を眺め、その人の存在に思いをはせながら一杯ごちそうになった」
似た取り組みとして、海外コーヒーチェーン店でブームになった「ペイ・イット・フォワード」がある。客が次に来店する別の人にコーヒーをおごる行為だ。ただ、おごられた側が感謝を伝える手段がなく、贈った側にも実感のない一方通行になる。そこで、両者の間を手紙で橋渡しするのが、お手紙コーヒーだ。
原形は、国分寺市の社会保険労務士、下田直人さん(47)が沖縄県名護市で営んでいたカフェの「恩送りコーヒー」。「昨日同じ場所に座っていた人と話す時空を超えたコミュニケーション」(下田さん)が話題になり、店内には常に二百五十枚ほどの手紙があった。沖縄に移住したばかりで友人の少ない客が「人とつながっている感じがする」と喜ぶこともあったという。
一方、影山さんは「カフェは疲れた時にほっとできる場所なのに、コーヒー代のない人が来られない現状を何とかできないか」と考えていた。国分寺に引っ越してきた下田さんと知り合い、昨年十一月下旬、お手紙コーヒーを始めた。三月上旬までに約七十人がお手紙カードを書き、二十五人がコーヒーをごちそうになった。
影山さんは「失敗した、仕事をなくした、家賃を払えない、落ち込んでいる。そういう時こそ『カフェにおいでよ』と言いたい」と話す。下田さんも「街角に一つこういう店があったら世の中がもっと優しい気持ちになれる」とうなずく。
クルミドコーヒーはオンラインでも、お手紙コーヒーを贈れるようにした。届いたメッセージをスタッフが代筆して店頭に並べる。これまでに七人が利用したという。詳しくは「クルミド百貨店」で検索。
文と写真・竹谷直子
◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。
関連キーワード
からの記事と詳細 ( 拝啓、コーヒーを飲むあなた 見知らぬ人同士、送り送られ 国分寺 手紙添え、おごる一杯 - 東京新聞 )
https://ift.tt/3cbfQTD
No comments:
Post a Comment