ご飯のお供「佃煮(つくだに)」が簡単アレンジで変身。ワインとの相性がこれまた絶妙! 消費が減り続ける伝統の佃煮を後世に残し、未知の可能性を広げる試みが始まった。天明2(1782)年創業「新橋玉木屋」本店(東京都港区)は、昨年11月から佃煮料理×ワインのペアリングを提供している。10代目の田巻恭子社長(45)が、需要が拡大するワインに着目。佃煮を調味料・具とすることで誰もが作れるシャレたレシピを持ち帰ってもらい、家飲みでの佃煮復権をねらう。
老舗の苦境を救った、母と娘のバトン
粒状パスタのフレゴーラが、あさり白佃煮の出汁(だし)を吸っている。プチプチ食感から、あさりのほろ苦いうまみとプチトマトの酸味が広がる。シャルドネの白ワインを流し込むと、春の味わいが香り立った。
彩り鮮やかな本格料理に見えるが「簡単です。料理人ではなく接客スタッフが作っています」と田巻社長。前菜から8品×3種のワインを楽しむコース(1日1組限定・要予約、4950円)だ。レシピを開発した江戸料理研究家のうすいはなこさん(49)も「佃煮の味が完成しているので、混ぜる、さっと火を入れる…2工程以内でできる。失敗しません」。
霞ケ浦で取れる小さな甲殻類、アミを秘伝のタレで仕込んだ佃煮に無塩バターとにんにく、レモンを合わせたパテがコク深い。
ワインに合う佃煮料理の開発を依頼された際「合う」と直感したうすいさん。「佃煮の製法はキャラメリゼ(加熱により糖分がカラメル化し香気成分が生じる)と同じ。佃煮の『塩と甘』を生かし、柑橘(かんきつ)系や乳酸菌の酸味と油脂、バターやチーズ、オリーブオイルなどを加えることがワインに合わせるポイント」
佃煮の使用量が過多になると「とたんに日本酒がほしくなってくる」らしいので、分量はレシピ通りに。
監修とワイン選びは、フードジャーナリストのマッキー牧元さん(68)が担当した。「ホームパーティーで佃煮の種明かしをすれば、みんな驚くオシャレな料理。佃煮は海藻、魚介、野菜、きのこ、肉…と素材のバリエーションの豊かさで他に類をみない。この貴重な伝統食を残すためには、時代に合った新しさも加えていかなければいけません。佃煮料理の本も出版して盛り上げたい」
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天明年間に煮豆屋として創業した玉木屋は、3代目が佃島の漁師が売っていた小魚煮に着目し、独自の風味の佃煮を商品化した。旧東海道沿い、新橋の花柳界にも近い立地で大繁盛した。だが、戦後の食の多様化による佃煮離れの中で、廃業の危機にも陥った。
昭和50年代。親族会議の結果、当時「嫁」の立場だった田巻社長の母、章子さん(78、現会長)が9代目社長に就任。食生活の変化を見据え洋風半生ふりかけを開発するなど、主婦目線の発想で立て直しをはかった。「仕事に専念する母へのさびしさは尊敬に変わり、早く一緒に働いて助けたいと思うようになっていた」と田巻社長。高校時代からアルバイト、短大卒業時に迷わず家業に入社し、23年目の一昨年、社長に就任。姉の麻衣子さん(52)も財務の大黒柱として支える。
昨年夏、本店が老朽化により立ち退きを余儀なくされ、現在の新虎通りに移転。それを機に店舗にカウンターを設け、ワインのペアリングをスタートした。 男社会の老舗を、母から娘たちへのバトンで発展させた珠玉の新機軸である。
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ワインとの組み合わせは時流に乗っている。昨年11月にメルシャンが発表した調査によると、平成22年からの10年間の比較で、日本酒の消費量が70・8%に減った一方、ワインは132・5%に増えている。
また、昨年来からの小麦価格上昇による米飯回帰も、佃煮には追い風だ。昆布佃煮シェア1位のフジッコによると、減り続けていた昆布佃煮市場は昨年から増加に転じているという。
便利な保存食であり、アレンジの可能性は無限大。ワイングラスとともに、佃煮再発見の〝旅〟へ!(重松明子)
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