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Monday, May 24, 2021

外国人にも人気の「缶コーヒー」が、なぜ2017年から低迷しているのか - ITmedia

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 外国人が日本にやって来て、その高い品質に驚くモノの一つに「缶コーヒー」がある。ネットやSNSには、日本の缶コーヒーを味わった外国人からこんな称賛の声があふれているのだ。

 「なにこれ? 期待しないで飲んだんだけど、めちゃくちゃうまい」「自分の国にある缶コーヒーとまったく違う、レベルが高すぎる」

 なぜこんなにも日本の缶コーヒーがうまいのかというと、品質に徹底的にこだわる日本人の「職人気質」が関係しているかもしれないが、実は「1億人という巨大な国内市場の中で切磋琢磨した」ことも大きい。

 日本の缶コーヒーの歴史は長く、パイオニア的な存在と言ってもいい。商品のアイデア自体は既に戦前の米国に存在しており、米コカ・コーラ社などでも開発が進められていたようだが、実際に販売されることはなかったという。それに対して、日本は戦後の高度経済成長期に入ってから、かなり積極的に商品化に取り組んでいたのだ。

缶コーヒーは外国人にも人気(写真提供:ゲッティイメージズ)

 『ザ・飲みモノ大百科』(著・串間努 /久須美雅士、扶桑社)によれば、『日本食糧新聞』で「1959年1月に外山食品が『ダイヤモンド缶入りコーヒー』の発売を予定」という記事が掲載されており、65年には、日本橋の三越本店が砂糖入りの缶コーヒー「ミラコーヒー」を発売。

 さらに、69年になると、上島珈琲本社(現UCC上島珈琲)の創業者・上島忠雄氏が、駅のミルクスタンドで飲んだ瓶入りのコーヒー牛乳から着想を得て、「UCCコーヒー ミルク入り」を発売。これは「世界初のミルク入り缶コーヒー」として注目を集め、翌年の大阪万博で一気に知名度が広まった。これをきっかけに他社も缶コーヒー市場へ続々と参入し、し烈な開発競争がスタートした。

 70年、日本の人口はベビーブームもあって1億人を突破。このような巨大国内市場の中で、缶コーヒーメーカーが群雄割拠して、半世紀にわたって「低価格・高品質」の競争を繰り広げれば、「え? たった100円でこんなにうまいの?」と外国人が驚愕(きょうがく)する缶コーヒーができ上がるのは自明の理だろう。ちなみに、この構造は、同じ時期から国内市場でし烈な開発競争がなされて、やがて海外市場で「低価格・高品質」が高く評価されていく自動車や家電もまったく同じだ。

缶コーヒー単体で売ることが難しい

 さて、そんな日本の「低価格・高品質」を象徴する缶コーヒーだが、ここにきて消費者人気が低迷しているのをご存じか。「缶コーヒーをよく飲むサラリーマンがテレワークで自宅にいるからでしょ」と思うかもしれないが、コロナ禍以前から「コーヒー人気が高まっているにもかかわらず、消費が落ち込んでいる」のだ。

 全日本コーヒー協会の「日本国内の嗜好飲料の消費の推移」によれば、「缶入りコーヒー飲料」の消費は96年を100とするとじわじわと下がり、2019年には73にまで落ち込んでいる。

 同協会によれば、コーヒー全体の国内消費量は右肩上がりで、96年には35万2189トンだったものが、19年には45万2903トンにまで膨れ上がっている。また、前出「日本国内の嗜好飲料の消費の推移」でも、「コーヒー飲料」全体は90年を基準にすると、19年は146%、つまり、1.5倍弱にまで膨れ上がっている。つまり、日本の消費者の「コーヒー愛」は右肩上がりなのに、「缶コーヒーだけ」がパッとしないのだ。

コーヒー全体の消費量は増えているのに……

 と聞くと、「市場は縮小しているかもしれないが、最近はやや持ち直してきているのでは? 鬼滅缶が空前の大ヒットというニュースを見たぞ」と感じる方もいらっしゃるかもしれない。確かに、ダイドードリンコが缶コーヒーのラベルに人気アニメ「鬼滅の刃」をあしらった通称「鬼滅缶」がコロナ禍に1億本を売り上げる大ヒットとなったのは事実だが、これをもってして「持ち直した」と言うのはかなり苦しい。

鬼滅缶が大ヒット(出典:ダイドードリンコ)

 むしろ、鬼滅ブームに便乗しなくてはいけないほど、缶コーヒー単体で売ることが難しくなっていることを世に示してしまったというべきだろう。実際、缶コーヒー市場シェア1位(売上本数)のジョージアでさえ、20年9月には「当たり」がでれば缶コーヒー1本と交換できる「運だめしキャンペーン」、同年12月には「機動戦士ガンダム」とのコラボキャンペーンをスタートして今年もそれを継続している。

 このような売り方が悪いと言っているわけではない。ただ、人気キャラとのコラボはファンやコレクターが買うので確実に売り上げが伸びる一方で、やめたときの反動が恐ろしくてズルズルと依存を強めてしまう。つまり、ドーピングで高記録を出したことで、薬物依存に陥るアスリートのようになってしまうのだ。以下の記事でも飲料業界の人間から、そのような危険性が指摘されている。

 『コラボ缶、鬼滅のもろ刃 コーヒー多様化で市場縮小、てこ入れ 営業利益倍「麻薬」懸念も』(毎日新聞、5月24日)

窮地に追いやられてしまった背景

 では、なぜ世界の人々がうなるほどの「うまさと安さ」の両立を実現した日本の缶コーヒーは、人気キャラコラボという“麻薬”に頼らざるを得なくなってしまうほど窮地に追いやられてしまったのか。

 よく言われるのは、「スタバのようなカフェがたくさんできた」「コンビニコーヒーが普及した」という理由だ。要は、コーヒーの飲み方が多様化してきたことで、もともとの缶コーヒーの顧客が流れてしまっているというワケである。

 理屈としては非常に納得感のあるストーリーではあるが、データを見る限り、この2つが缶コーヒー低迷の主たる原因というのにはやや疑問がある。「スタバのようなカフェ」「コンビニコーヒー」が急速に普及していく大逆風の中でも、缶コーヒーはかなり善戦してきたからだ。

 先ほどの「日本国内の嗜好飲料の消費の推移」を詳しく見てみると、96年から99年まではプラスで、00年からマイナスに転じるが、なんと16年までは「96〜94」の水準でかろうじて踏ん張っていたのだ。それが17年に息切れしたかのように、90に落ち込むと、翌18年にダムが決壊したように一気にガクンと下がって80となり、19年に73まで落ち込むのだ。

缶コーヒーの消費量が減少している(出典:全日本コーヒー協会)

 スターバックスのWebサイトを見ると、日本市場で100店がオープンした99年に「全国展開が本格化」とある。スタバを中心としたカフェの乱立が缶コーヒーの低迷に影響を与えているのなら、00年前半からもっと派手に缶コーヒー消費が落ち込んでいないと辻つまが合わない。

 また、コンビニカフェに関しても、ローソンは11年、ファミマが12年にスタートさせて、13年のセブンカフェで一気に普及する。セブンーイレブン・ジャパンのリリースによれば、わずか半年の7月には累計1億杯を突破して15年2月末には11.5億杯になったという。これを踏まえれば、13年くらいから缶コーヒー消費に影響を与えていてもおかしくないが、先ほども申し上げたように、現実には16年までそれほど顕著に落ちていないのだ。

 つまり、缶コーヒー消費に致命的なダメージを与えたのは、実は「カフェ・喫茶店の増加」や「コンビニカフェ」ではなく、17〜18年に突発的に発生した「何か」である可能性が高いのである。

缶コーヒー低迷とタバコの関係

 では、「何か」とは何か。まず考えられるのが「ペットボトルコーヒー」だ。実は17年4月に日本の缶コーヒー市場を震撼(しんかん)させる出来事があった。今、巷(ちまた)にあふれるペットボトルコーヒーの先駆け的存在であるサントリーの「クラフトボス」が発売されたのだ。

 発売からわずか9カ月で1000万ケースというこのヒット商品は、すぐに他メーカーも追いかけて瞬く間に新カテゴリーが創出されたのだ。つまり、「ペットボトルコーヒー」の増加によって、従来の缶コーヒーのユーザーがこちらへシフトしてしまったというワケだ。

2017年に発売したサントリーの「クラフトボス」が大ヒット

 と聞くと、「なーんだ、容器が缶からペットボトルに変わったことで、消費が落ち込んだように見えたのか」と思われたかもしれないが、そうとも言えない。

 このペットボトルコーヒーがヒットするのと同じ時期に、「缶コーヒー」と切っても切れない相棒のような関係の「嗜好(しこう)品」に壊滅的なダメージがもたらされる。

 もうお分かりだろう、その嗜好品とは「タバコ」だ。

 18年6月に東京都が受動喫煙防止条例を制定、そして政府も同年7月に改正健康増進法を成立させた。これによって、飲食店だけではなくオフィスなどでも一気に「屋内原則禁煙」が一気に進んだのである。また、これらの規制ができる前の17年後半ごろから、メディアでも繰り返し繰り返し、受動喫煙の害が叫ばれていた。

 つまり、17年から強まる「嫌煙ムード」と18年の禁煙規制の成立によって、社会の中での「働き盛り世代」ともいうべき30〜40代が一気にタバコを吸うことをやめていくのである。

 厚生労働省「国民健康・栄養調査」の男性の成人喫煙率によれば、18年は29%。前年の29.4%とほとんど変わっていない。前々年の30.2%からやや減少している程度だ。しかし、「30〜39歳」「40〜49歳」だけはガクンと減っている。16年には42%、41.1%だったものが18年には37.4%、37%とこれまでの減少具合とは比べ物にならないほどの減りっぷりなのだ。

喫煙者の推移(出典:厚生労働省)

 男性の30〜40代といえば、仕事的にも中心的な役割を果たすようになるので、会社として受動喫煙防止対策を進める中で率先して従わないといけない。また、家族も持ち始める時期でもあるので、タバコの害が連日叫ばれる中で、妊娠中の妻や幼い子どもへの害を心配して禁煙に踏み切った人も多かったのではないか。

 ちなみに、この10年くらい喫煙者はずっと肩身の狭い思いをしてきたが、実はそこにダメ押しをしたのが、今大逆風が吹いている東京五輪だ。

缶コーヒーの活躍の場

 実はIOCはWHOとパートナーシップを結んでいて、「ノースモーク五輪」を掲げ、開催都市に対して五輪と引き換えに、「国際基準の禁煙規制」を受け入れることを求めてきたのである。実際、かつてはそこかしこでタバコが吸えた北京もソチも五輪開催を機に規制が強まっている。つまり、五輪とは「タバコ撲滅運動」を世界に広めるイベントでもあるのだ。

 東京都と日本政府は、まんまとそれに乗ったというわけだ。

喫煙者の割合(年代別、出典:厚生労働省)

 このように17年からのタバコへの逆風が、30〜40代の喫煙者がガクンと減らし、それが缶コーヒーの消費の落ち込みに影響を与えた可能性はないか。

 少し古い調査になるが、マイボイスコムが10年に発表した「たばこの利用調査」と「缶コーヒーの嗜好調査」を組み合わせた2テーママッチング分析によれば、男性喫煙者の3人に1人(31%)が1日1本以上缶コーヒーを飲用していた。非喫煙者で1日1本以上缶コーヒーを飲んでいるのが12.6%にとどまっていたことと比べると、「缶コーヒーとタバコ」をセットにしている愛煙家がいかに多いかが分かるだろう。

缶コーヒーとタバコの関係

 これを踏まえると、缶コーヒーの消費低迷は、ペットボトルコーヒーの増加もさることながら、缶コーヒーとセットで楽しむタバコを吸う人間が減ったことが何よりも大きいのではないか。

 缶コーヒー片手にタバコをプカプカ吸うのは、かつて日本のサラリーマンの標準スタイルだった。缶コーヒーが普及した70年代の男性の喫煙率はなんと8割近くもあった。しかし、今や喫煙率も2割弱まで落ち込んだ。そのような意味では、「タバコの友」である缶コーヒー人気が低迷するのも当然かもしれない。

 とはいえ、冒頭でも述べたように、日本の缶コーヒーは、世界中のコーヒー愛好家が驚くほど高いクオリティーまで進化を遂げた強みもある。

 また「缶」という容器に関しても、長期保管できることや、輸送しやすいなどのメリットが多い。パンデミックや自然災害などのリスクが増している世界で、日本の缶コーヒーの活躍の場はまだあるはずだ。

「新しい時代の缶コーヒー」を期待

 長く低迷していた魚缶がサバ缶ブームや「缶つま」の人気で持ち直したように、缶コーヒーも何かのきっかけで魅力が再確認される可能性もある。

 例えば、缶コーヒーはどれほど味が良くても、いまだに「サラリーマンの定番商品」「おじさんの飲み物で女子は飲まない」というイメージが根強く残っているので、それを破壊するため、800円くらいの超高級缶コーヒーつくってみてもいい。少し前、スペシャルティコーヒーを扱うブルーボトルコーヒーが640円の缶コーヒーを自販機で売って話題になったが、品質に自信のある大手メーカーもやってみるのだ。

ブルーボトルコーヒーから高級缶コーヒーが登場した

 「そんな高いモノは売れないでしょ」という声もあるだろうが、カフェだってドトールのような安さをウリにした店から、800円くらいの高級コーヒーを出す店まで幅広い。「低価格・高品質」を求めるだけが消費者ではないし、「安くてうまい」というデフレ的マーケティングに固執していては、缶コーヒーのイメージは100年経っても変わらないのではないか。

 人気アニメとのコラボも結構だが、そろそろ「タバコのお供ではない、新しい時代の缶コーヒー」を期待したい。

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