神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けた夫婦が死亡した事故で自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた無職石橋和歩被告(27)の控訴審判決で、東京高裁は6日、懲役18年とした一審裁判員裁判判決を破棄し、横浜地裁に審理を差し戻した。一審に続き危険運転致死傷罪の成立を認めたが、審理手続きに違法な点があったと判断した。

事故は17年6月5日夜に発生。石橋被告は静岡市の萩山嘉久さん=当時(45)=一家のワゴン車にあおり運転を繰り返し、ワゴン車の前で停車した。追い越し車線上に止められたワゴン車に後続の大型トラックが追突し、萩山さんと妻友香さん=当時(39)=が死亡、同乗の娘2人も負傷した。

高裁の朝山芳史裁判長は、停車行為は危険運転に当たらないとした上で「夫婦の車が停車したのは、被告の停車行為が直接の契機だが、その前のあおり運転自体が与えた影響による結果だ」と指摘。被告による暴行で停車し続けたため、追突事故の危険性が高められて、実際に事故が起きたとして、あおり運転との因果関係を認めた一審判断に誤りはないとした。

しかし、横浜地裁が公判前整理手続きで、危険運転致死傷罪は成立しないとの見解を表明したのに、見解を変更して成立を認めたのは「被告や弁護側に対する不意打ちだ。判決に影響を及ぼす違法な手続きだった」と批判した。

差し戻し審では危険運転致死傷罪の成立もあり得ることを前提とした主張立証の機会を設けた上で「改めて裁判員裁判で審理を尽くすのが相当だ」と述べた。

萩山さんの母文子さんは東京都内で記者会見し、判決について「元に戻るような感じで、すっきりしない」と話した。

控訴審で弁護側は、一審判決は法を拡大解釈していると主張。「夫婦死亡との因果関係があるのは停車行為だけで、同罪の適用は誤りだ」としたほか、審理手続きの違法性も訴えていた。検察側は控訴棄却を求めていた。(共同)