● レビュー
フィンランドは、世界一コーヒーの個人消費量が多い国である。フィンランド人ではなくとも、コーヒーは日常生活に欠かせないという人は少なくないだろう。日本でもサードウェーブといわれるコーヒー店が街角に軒をつらね、にぎわいある風景の一部としても一役買っている。しかしこんな身近なコーヒーも、大量消費と気候変動によって、遠くない将来、今までのようにいつでも気軽に飲めるものではなくなるかもしれない。
本書『世界からコーヒーがなくなるまえに』のアイデアは、フィンランド人である著者の二人が、ストックホルムのコーヒー・フェスティバルで、あるブラジル人の親子に出会ったことに始まる。彼らとの出会いをきっかけに、フィンランド人の二人は「世界で最もコーヒー個人消費量の多い国民が、世界でもっともコーヒー生産量の多い国へ」と、ブラジルへ旅立った。
本書の原題は『コーヒー革命』。ブラジルへの旅を通して、どんな人たちがコーヒー豆を栽培しているのか、また、我々の選択がコーヒー生産国の人々や地球環境にどんな影響を及ぼしうるのか。消費者のこうした疑問に答える本書の存在こそが、これからますます貴重になるコーヒーを大切に飲むための一歩になるだろう。
環境にも経済にも良い影響を及ぼし、しかもおいしいコーヒーが飲める未来に向け、著者二人は消費者である私たちの行動に「革命」を促す。本書がコーヒーだけでなく、食のサステナビリティを考えるにあたり、よい示唆をくれることは間違いない。(菅谷真帆子)
● 本書の要点
(1)世界中で気候変動その他の問題が勃発している今、消費行動を劇的に変えなければ、やがてコーヒーを飲めなくなる可能性が高い。
(2)オーガニック認証では、コーヒーの質や生産者たちの労働環境は保証されない。オーガニックで、高いモラルと倫理性、製品の妥協なき品質を意味する「トータル・クオリティ」を目指すべきである。
(3)トータル・クオリティの実現には、消費者の行動が鍵となる。安すぎるコーヒーを大量消費するのではなく、良いものを少なめに消費するよう心掛けるのがよい。
● 要約本文
◆オーガニック農場の誕生
◇クロシェ家とコーヒー農場
ブラジルは、国際コーヒー機関が掲げるコーヒーの五大生産国の中で、最も生産量が多い国だ。しかし、ブラジル産コーヒー豆の評判は良いとは言えず、ブラジルの生産者たちは質より量に力を入れていると言われてきた。1960年代に、政府が市場のニーズを満たすための低価格と固定生産量確保を推し進めた結果、質の良い豆を悪いものに混ぜて生産量を確保していたからだ。とはいえ、近年はこのブラジル産コーヒーに対する偏見も少しずつ払しょくできるようになってきたと著者はいう。
ブラジルのコーヒー栽培者、マルコス・クロシェは、ブラジルだけでなく海外をも周り、サステナブルなコーヒー栽培について伝えている。同行しているのは、息子のフェリペだ。彼ら2人が本書の主要登場人物となっている。
マルコスと妻シゥヴィアがアメリカに移住したのは、1991年のことだ。当初は貿易業を営んでいたマルコスだが、1998年に友人から自然保護団体の役員へ誘われたことをきっかけに、自然や環境への多様性について意識を高めることとなる。「金は稼いでいたけれども、それはただの物質だ。人間が本当に必要としないものだ」と語るマルコスは、2001年にシゥヴィアの父が他界すると、ブラジルに戻ることを決めた。
シゥヴィアは、父の農場を相続してコーヒー農場をやろうというマルコスの提案に対し、オーガニック栽培を条件とした。そして彼女は、農場を運営するルールとして、自然に優しい農法であることと経済的に自立できる農園であることを挙げた。
息子のフェリペは、大学時代の教員がコーヒーにこだわりを持つ人物であったことから、コーヒーに興味を持つようになる。当時、マルコスの農場は、オーガニック栽培への転換の中で費用がかさんでいただけでなく、生産量が80%も低下していた。マルコスはアメリカでの事業を継続しながらブラジルの農場を経営していたため、フェリペは大学を休学してブラジルへ引っ越し、五代目の農場主になるという大きな決断を下すこととなった。さらに、マルコスがコーヒー豆の輸出業を行っていたことから、クロシェ家はコーヒーを輸出するためのコメクイドリ・コーヒー(Bob-O-Link Coffee)というネットワークを築いた。
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